沖縄料理というと、皆さんは何が思い浮かんできますか。
やっぱりゴーヤーチャンプルー?石垣牛のステーキ?それともタコライスでしょうか?
もし「沖縄料理」と「琉球料理」を区別するとしたら、皆さんはその違いが一体何なのかご存じでしょうか?
「琉球料理」というと、一般的には沖縄独自の材料や調理法を使い、歴史的に受け継がれてきた料理のことを指します。一方で「沖縄料理」は、タコライスやポーク玉子など、戦後、アメリカの影響を受けて作られるようになった今風の料理。例えば、食堂などで出されるチャンプルー(注①)の多くは、ポークランチョンミートが使われますが、琉球料理のやり方で作るのであれば、茹でた豚三枚肉を使います。この日本本土とは異なる独自の文化は2019年『琉球王国時代から連綿と続く沖縄の伝統的な「琉球料理」と「泡盛」、そして「芸能」』 が、沖縄県から初めて、日本遺産(注②)に認定されました。
今日は元気の秘訣である、琉球料理について少し掘り下げてみましょう。
注① チャンプルー:豆腐と季節の野菜を炒め合わせる調理法のこと。インドネシア語・マレー語のcampur(まぜこぜする)に由来するという説があります。
注② 日本遺産:地域の歴史的魅力や特色を通じて、日本の文化・伝統を語るストーリーを文化庁が認定する文化遺産保護制度のことです。
琉球料理の源流
琉球王朝時代に中国の冊封使や薩摩の在藩奉行(薩摩藩が琉球に常駐している役人)などをもてなすための料理が生まれ、いつしかそれが調理技術や作法などを洗練させて宮廷料理として確立しました。やがて上流階級に伝わり、明治以降は一般家庭にも広がってさらに発展しました。また、それとは別に亜熱帯・島嶼の自然環境のもとで育まれてきた家庭料理があり、その双方を源流として現在に受け継がれているのが琉球料理です。
また、自然崇拝や先祖崇拝が息づく沖縄では、島々に伝わる伝統行事のほかにも中国や日本から伝わった多彩な年中行事が多く行われています。そこで、親戚や地域の人が集まり、みんなで食べる行事料理が生まれました。
琉球料理の素材、調理法、味わい
日本料理と違い、琉球料理は亜熱帯の風土に根ざした野菜、魚介類、海藻をはじめ豆腐、豚肉を多く用いるとともに、外来の昆布やスンシー(しなちく)などを巧みに取り入れ独自のスタイルとして定着させています。
食材の相性を工夫し、栄養的にもよいとされる自然の素材や、煎じ物(シンジムン)と呼ばれるスープを作るなど、「医食同源」の考え方が根付いています。一般的には脂を用いた汁物、煮物、炒め物、揚げ物が多い反面、生食は意外なほど少ないです。
琉球料理は豚の出汁とカツオ出汁をベースに、肉、魚、昆布、野菜などから複合的に生まれる深い旨味やコクが味の基調をなしています。
では、代表的な琉球料理はいったいどんなものでしょうか?少しだけ紹介します。
① おもてなしの宮廷料理
琉球王朝の王が変わるたび、中国から皇帝の使者である冊封使がやって来ました。宮廷料理は国賓である彼らをもてなすための料理であり、中国の調理法や食材の影響を受けています。見た目はとても華やかで、代表料理は東道盆という宴席料理の盛り合わせがあります。
② なんでも取り込むパワフルな家庭料理
豚肉料理: 琉球の豚肉料理の特色は、頭から足の先まで、「鳴き声以外は全て食べる」と言われてるほど多くの部位を使うところです。中国料理のトンポーローの技法を取り入れとも言われている琉球宮廷料理のラフテーはその代表で、てびち、みみがー、中身汁などあります。
(左から:ラフテー・中身汁)
豆腐料理: 沖縄の「島豆腐」はアチコーコー(沖縄方言で「作り立ての熱い状態」)のうちにそのまま食べても最高においしいです。そしてゴーヤーチャンプルーが代表とするチャンプルー料理にも欠かせないものです。やわらかくふわっとした「ゆし豆腐」もあります。カツオ出汁と味噌風味の素朴な味わいが人気を博しています。そのほかに、ピーナッツを粉にして作ったクリーミーなジーマーミ豆腐、泡盛でつくった宮廷料理の豆腐よう(スーパーでも買えます)も食べ逃がさない珍味です。
海藻・昆布料理: 昆布が採れない沖縄は昆布の消費量は日本でトップクラスと言われています。代表料理はクーブイリチー(昆布の炒め煮)です。年中行事の重箱料理やソーキ汁にも昆布が入ります。そのほかに地元に採れるモズクやアーサを食材にしている料理も有名です。
(左から:ゴーヤーチャンプルー・ゆし豆腐・モズク酢・くーぶいりちー)
魚料理: 海に囲まれている沖縄県ですが、実は魚介類消費量では全国最下位です。しかし、沖縄は国内でとれるマグロの好漁場として有名です。代表的な魚料理としては、マグロの酢味噌和え、県魚であるグルクン(和名:タカサゴ)のから揚げ、クスイムン(薬膳)として親しまれているイカの墨汁(すみじる)があります。
野菜料理: 沖縄特有の野菜「島野菜」を主に使う野菜料理の代表はパパイヤイリチ―(パパイヤの炒め煮)、ニンジンしりしり、ゴーヤーチャンプルー、ナーべーラーンブシー(へちまの味噌煮)、島らっきょうの天ぷら、ターンム(田芋)のから揚げ、紅芋のウムクジアンダギー(芋くずの天ぷら)などです。どれも沖縄の暖かい気候から生まれた、郷土を代表する料理です。
主食料理:メジャーな沖縄そばのほかに、ソーミンタシヤー(そうめんの炒め物)、クファジューシー(沖縄の炊き込みご飯)、ヤファラジューシー(沖縄の雑炊)などもあります。
(左から:マグロの刺身・イカ墨汁・ニンジンしりしり・クファジューシー)
③ 家族の絆を大切にする行事料理
沖縄の行事料理は、結婚式や自分の干支の年(トゥシビー、数え年で13歳、61歳から97歳まで)など人生の節目なる時、旧正月、清明祭、お盆などの年中行事の時に食べる琉球料理のことです。健康長寿、家族安泰、子孫繁栄などの願いが込められています。
琉球料理のお供「泡盛」
フランス料理にはワイン、中華料理には紹興酒、日本料理には日本酒のように、やはり琉球料理のお供は沖縄の地酒―「泡盛」は欠かせません。また、泡盛は酒として味わうほかに、琉球料理「ラフテー」「豆腐蓉」など独特な風味を出すため調味料としても使われています。沖縄で泡盛を飲むなら、特に長く寝かせ熟成させた古酒(クース)がお勧めです。
琉球料理の器―琉球漆器と琉球陶器「やちむん(焼き物)」
琉球料理は琉球漆器、陶器等を用いて料理を盛り付けられ、器の美しさにも目を引くものがあります。また、琉球王国の象徴する建築物である首里城正殿も大量の漆が使われたことから、巨大な琉球漆器と言われます。接客用の琉球料理を盛る器としての漆塗の盆「東道盆(トゥンダーブン)」は、王朝時代から用いられ、時代が変わっても料理とともに琉球の美を表現しています。また、鮮やかな色や大胆な絵付け、独特の形の沖縄陶器「やちむん」は、沖縄独自の文化や生活様式から生まれたものです。美しい伝統工芸のわざが光る、これらの器は琉球料理の味を一層引き立てます。
画像 ⒸOCVB
まとめ
沖縄県の食文化は、長い歴史や諸外国との交流の中で、人々の生活に根付いて育まれた独特なものです。長寿県沖縄の秘密もまさにこの伝統料理に隠されています。
沖縄に訪れるのでしたら、この日本遺産に認定された琉球料理を、心ゆくまで堪能してみてはいかがでしょうか? そしておいしく召し上がった後は、沖縄方言で「クヮッチーサビタン(ごちそうさまでした)」と言ってみてくださいね。